幽霊パッション 第三章 水本爽涼
第十一回
『いえ、それが、そうでもないんです。僕も初めは、そう思えたんですが…』
「違うってことでもないのか?」
『ええ、そこはそれ、霊界のトップが仰せのことですから、それなりに意味があろうかと…』
「それを、この朝早くから云いに現れたのか?」
『はい、僕も今一、意味が分からないもので、それを課長と考えようと、ご相談を…』
「そんなことを朝っぱらから考えさせるなよ!」
上山は少し怒れた。
『はあ…。もう一度、出直しましょうか?』
「いや、せっかく現れてくれたんだから、適当に待っててくれりゃいいけどな。今は寝起きだから、脳が活性してないからさ」
『ああ、そりゃそうですね。一時間ほど漂ってます』
「いや、二、三〇分も待ってくれりゃいい。もう、そんなに眠くないから、少し早いが起きるか…」
そう云うと、上山はベッドから出て、着替え始めた。出勤前に来ているいつものラフな格好に、である。幽霊平林は、それを見ながらスゥ~っと透過して応接室へ入った。むろん、六時過ぎだから、室内は暗い。幸い、窓の採光があるから、次第に室内は明るくなっていた。二、三〇分という感覚はファジーで、飽くまでも大よそである。幽霊平林に幸い、待つという行為が生前のようにイラついたり辛くなることはなかったから、別段、苦にならなかった。その大よその二、三〇分が経った頃、ふたたび幽霊平林は透過した。今、上山がどこにいるかは、これも大よそ分かっているから、そうと思える洗面台方面へと透過した。しかし、上山の姿は、もうなかった。蛇口から出た水跡が洗面台に残っているのに気づき、厨房(キッチン)へ行った後か…と、幽霊平林は思った。案の定、上山は厨房のテーブル椅子に、レンジで温めたミルクを飲みながら座っていた。