幽霊パッション 第三章 水本爽涼
第十六回
しばらく静寂の時が流れたが突然、田丸が語り出した。
「…、で、先ほどの大ありの話って?」
「ああ、変わった話ですか。いやあ~、まあ、二人で正義の味方をやっていた訳です。社長もご存知だと思いますが…」
「ああ、新聞で読んだやつだな、武器輸出禁止条約が批准された」
「ええ、そうです。まず世界紛争の直接行為となる武器をなくそうと考えた訳です」
「ああ、なるほど…」
田丸も理解できたのか、その話には頷(うなず)いた。
「で、結果は新聞やテレピで報道されたとおりです」
「君達の名は、まったく出ていないから、文字通りの正義の味方だわなあ~、ははは…」
笑った田丸だったが、すぐ真顔に戻ると、「世間の常識では起こらんことだからなあ~。まあ、私は信じよう」と厳(おごそ)かに云った。普通の者に云えば、「そんなことが、信じられるかっ!」と一喝(いっかつ)されるところである。
「はい! まあ、この話をマジで話せるのは、社長をおいてないですから」
「ああ、それは云えるだろうし、他人には云わん方がいい。変人扱いされかねんからなあ…」
「はあ…」
上山は人間界で唯一、幽霊平林の存在を知る田丸を見た。しかし、やはり輝いた丸禿(はげ)頭は厳然と田丸の頭上で光り輝いていたから、思わず笑えて、すぐ目線を机上へ戻した。
「私には平林君が見えんからなあ。ただ、いつだったか、このボールペンが動いたから信じたんだが…」
「ああ、はい。そんなこともありましたね」
「ゴーステンは、その後、どうなったんだ?」
「いや…そちらの方は正義の味方活動でご無沙汰しております」
「ああ、そうか…。ということは、滑川(なめかわ)、佃(つくだ)両教授にも会っとらんのか?」
「はい、ご無沙汰しております」