水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 幽霊パッション 第三章 (第十四回)

2012年01月23日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第三章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      
    
第十四回
「おお、久しぶりだな、上山君。元気そうで何よりだ」
「あっ! これは社長!」
 相変わらず照からせて、とは、さすがに云えず、上山は徐(おもむろ)に田丸を見ず、光沢のいい丸禿(はげ)頭を見た。
「実はな。その後、アノ方は、どうなってる?」
「はっ? アノ、とはドノ?」
「アノはアノだよ」
 田丸は他の社員がいる手前、やや小声で素早く幽霊の手をジェスチャーした。
「ああ…、アレですか。アレは順調にいっております」
 上山も左斜め前方に座る係長席の出水を意識しつつ云った。
「そうか…。いやなに、それならいいんだ。どうだ、まあ、
ちょっと歩かんか」
 田丸は課の入口ドアを指さしてジェスチャーした。
「はい!」
 上山は、思わずそう云った。二人は課を出て前通路を歩いた。上山には進む目的の場所がない。ただ、田丸の後方を従うだけである。しばらく無言で歩いたとき、ふと田丸が振り向いて云った。
「まあ、入りなさい…」
「はあ…」
 そう頷(うなず)いて上山が見ると、社長室前だった。グルリと巡り歩いて、上山としては、それなりに、いい運動には、なっていた。ドアを開けて入った田丸に続き、上山も入った。
「まあ、座りなさい」
 田丸は応接セットの長椅子を上山に勧(すす)めた。上山は丸禿(はげ)頭を見ながら、━ まあ、 ━ が好きな人だな…と、思った。


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