幽霊パッション 第三章 水本爽涼
第十五回
上山が座ると、田丸も対面のシングル椅子に座った。田丸と対峙すると、どうも笑えてしまい、それを抑えるのに難儀する上山なのだ。今もそうなりそうで、上山は自然と机上へ視線を落としていた。
「で、平林君は今でも見えるのかな?」
徐(おもむろ)に田丸は訊(たず)ねた。
「はい、見えます。今は、いませんが…。なんなら、呼びましょうか?」
上山は臆することなく、平然と答えた。
「いや、もう少しこのまま話そう。それからでもいいだろう。別に急ぐことでもない…」
静かに田丸は返した。だが、その内心は鬱積(うっせき)した疑問を、すべて知りたい衝動にかられていた。それを押し殺して静かに返したのだった。
「で、社長に何をお答えすればよろしいんでしょう?」
「だから、平林君との、その後だよ。何か変わったことなどないか、と思ってね」
「いやあ~社長。ここだけの話なんですがね。実は、大あり、なんですよ。私達は今、世界の隠れた正義の味方、つまり、ヒーローなんですよ」
「えっ!? 話が突飛すぎて、よく分からんが…」
「話せば長くなりますので、掻い摘んで申しますと、平林君が霊界のお偉方に云われたのが発端なんですよ。そのことを実行することによって、私が幽霊の平林君を見えたり、彼も幽霊姿でいつまでも霊魂の姿になれないといったことが、すべて解決するということなんです」
「ほお…。つまり今までどおりの君に戻れる、って訳か」
「はい、そうです。彼と別れるのは寂しいんですが、お互いのためですし…」
「君も平林君も、辛いところだな」
「はい、まあ…」
「なるほど…」
田丸はそれ以上、深く追求しなかった。