幽霊パッション 第三章 水本爽涼
第十回
上山の家の構造は、何度も現れているから頭の中に刻まれている。闇夜だろうと何だろうと、幽霊平林が迷うことはない。…、まあ、今の平林は、幽霊平林として、ある意味で迷うことは迷っているのだが、その意味の迷いではない。
さて、幽霊平林が上山の寝室へと透過すると、やはり上山は寝息を掻いて爆睡中であった。スゥ~っと近づいて、幽霊平林は上山のベッドの真上で声をかける間合いを探った。
『課長! 課長! 僕です…』
「… … んっ? … …」
『課長! 起きて下さいよ!』
「… … なんだ、君か…」
眠そうに目を擦(こす)りながら、上山は半身を起こした。
『早朝から、すみません!』
「なんだ? 急ぎの用か?」
『いえ、そんな訳でもないんですが…』
「だったら、こんな早くなくったって…」
不平を露(あらわ)にして上山は云った。
『はあ…。この前、といっても昨日のことですが…。さっそく、霊界の専門家に訊(き)いてきましたので、お伝えしようと思いまして…』
「ああ、昨日、云ってたことか…。そんなに急ぐことでもなかったんだが…。まあ、いい」
『そのままで結構ですから、お聞き下さい』
「ああ、分かった。…六時前じゃないか」
上山はベッドの置時計を見ながら、ボソッと吐いた。
『霊界番人様の仰せでは、人は武力では食べられない、ということでした』
「なんだ、それは? 私が訊き)いてくれといった内容とは、まったく違うじゃないか…」