水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 幽霊パッション 第三章 (第十八回)

2012年01月27日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第三章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      
    
第十八回
「それじゃ、頑張ってくれ! としか、私には云えんな」
 田丸は鼻下の髭を自慢げに片手の指で撫でつけながら云った。
「もう、いいでしょうか?」
「偉く、つれないじゃないか、上山君」
「いや、そんなこともないんですが…。今日、彼と、また会いますので…。次の新たな展開が始まる可能性もありますから、結果は孰(いず)れ社長にお話ししますよ」
「うん! それなら、いい。ご苦労さん。仕事を邪魔して申し訳ない」
「いえ、それはいいんですが…。係長の出水君もおりますから」
 本当にいい迷惑だよ…と上山は内心、思えていたが、口では、そう云っていた。
 上山が課へ戻り、その日は事もなげに時が流れていった。
 その頃、霊界の幽霊平林は、そろそろか…と、動きかけていた。動きかけるとは、人間界で云う、起きようとしている状態である。その幽霊平林が最初に気になったのは当然、現在時間である。もちろん、霊界には時の流れがないから、霊水瓶(がめ)に流れ込んだ水量増加で経過した時間を加えて知る他はなかった。スゥ~っと動いて瓶に近づくと、上山と別れてから大よそ七時間が流れたことを水量目盛により確認出来た。少し早いか…とは思えたが、幽霊平林は人間界へと移動した。むろん、会社は拙(まず)いと直感で閃いたから、現れたのは上山の家である。部屋の時計を見ると四時過ぎで、まだ一、二時間は、あったか…と、適当に漂うことにした。一方の上山は会社で社長に解放されたあと、いつもと変わらず業務計画書や企画書などに目を通し、決裁を済ませていった。
「あの課長、よろしいでしょうか?」
 突然、岬が課長席に接近して、そう云った。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする