幽霊パッション 第三章 水本爽涼
第二十一回
「正義の味方? そこを、もう少し、詳しく聞きたいが…」
「いや、これは霊界トップの意向でもあるんです。実は、平林君が霊界では稀有(けう)な幽霊姿のままなんですよ。それを霊界トップは偉く興味をお示しになり、平林君に如意の筆をお与えになったり彼が見える私とタッグを組ませて社会正義を実践(じっせん)せよ、とご命じなんですよ…」
「ほう…、そんなことがあったのか。しばらく君らとは会っとらんから、状況がそれほど変わっとるとは知らなかったからのう…」
滑川(なめかわ)教授は、二人(一人と一霊)の間に、どういう展開があったのか、まったく知らないから、把握(はあく)出来ていなかった。
「そりゃそうでしょう。一度、教授の研究所にお邪魔しますよ」
「おお、是非そうしてくれ。電話じゃ話せん積もる話もあるからのう…」
「はい、それじゃ今夜のところは、これで…」
「うん、幽霊のナントカにもよろしく云っといてくれ」
「はい、では…」
上山が電話を切ると、幽霊平林は斜め上よりスゥ~っと降下して上山に接近した。
『教授、元気そうですね』
「ああ…、以前と、まったく同じだよ。まだ毒舌口調は健康だ」
上山は自室へ歩きながらそう返した。その後方を幽霊平林は従う。
『あの…、これがピックアップした独裁国家リストのメモです』
上山が背広を洋服箪笥(たんす)へ収納してラフなセーターに着替えすると、それを待っていたかのように幽霊平林は語りだした。
「ああ、それを…。書いてある内容は読めるが、残念ながら手にすることは出来んから、君、申し訳ないが、私の目の前へ広げてくれんか」
『あっ! そうでした。これは霊界紙でした。つい、うっかりしてました、ははは…』
幽霊平林は陰気に笑うと、胸に挟んだメモを上山の目前で広げた。