代役アンドロイド 水本爽涼
(第193回)
吊革などいらぬ気で、威風堂々の和服姿は他を威圧する。なぜ、じいちゃんがここにいるんだ…と、保の頭はパニッックになった。申し計ったような正確さ・・偶然にしては余りにタイミングが良過ぎるのだ。長左衛門だからと言えばそれまでだが、保には俄かには信じられない長左衛門の出現だった。
「じ、じいちゃん!!」
保は声を乱していた。まさかの展開である。想定外とはまさにコレで、周囲に乗客がいる以上、どうすることも出来なかった。仕方なく揺られているしかない。降りる駅が次に近づいたとき、長左衛門はボソッ! と保の耳元で囁いた。
「どうも気になってな。今日は一人で出てきたんじゃ。あの娘御はどうしておる?」
「沙耶か…。元気にしてるよ」
「そうか。ムフフ…」
長左衛門は意味深にニヤけた顔をした。
「じいちゃんが考えてるような間柄じゃない」
左右前とひとがいるから、保は小声で呟いた。
「まあいい、まあいい…」
人目が周囲にあるのは長左衛門も分かるから、それ以上は深追いしなかった。そのことよりも、手下の里彩が今回、いないことが、保にとっては、ホッと安心できた。長左衛門だけなら、なんとか守勢でも凌(しの)げるからだった。里彩の場合は、とんでもない話で切り込んでくるから、保にとっては返って手強(ごわ)かった。