代役アンドロイド 水本爽涼
(第194回)
保が駅ホームへ下りると、長左衛門も当然のように、あとへ続いた。
「あっ! ああ…。じいちゃん、研究室へ来るのか?」
「むろんじゃ。挨拶だけして、すぐお暇(いとま)するがな。実は、今日は久々に二寮会の集いがあってのう…」
「ニ寮会? ああ、大学の?」
「おお、そうじゃ」
長左衛門は、これでどうして、京東帝国大学卒で、保の大先輩だった。早逝した保の父、勝造も学部こそ違え京東卒で、岸田家は親子三代、京東卒を輩出した超エリートだった。
「なら、いいけどさ…」
保は、やれやれである。フウ~っと溜息を吐いたその前を時速300Km以上の超高速で通過する風が吹いた。瞬間、保にはそれが沙耶だと分かった。幸い辺りの人々は気づく人はなく、木枯しかしら…などと首を傾(かし)げて言い合いながら外套の襟を立て通り過ぎる人があったくらいで済んだ。保は、システムを修正して入れ替えたから、沙耶がこんな突飛な動きをするとは思っていなかった。システム変更で高速移動できるのは休養、非常時のみと限ってプログラムを組み替えたからだった。だから、保はまた、やれやれ、やってくれたな…である。保と長左衛門がふたたび数歩歩いたとき、ビルとビルの隙間から沙耶が現れた。
「イエローカードだぞ! 沙耶」
『ごめん! さっき里彩ちゃんから電話があってさ、おじいちゃんが行ったって…』