代役アンドロイド 水本爽涼
(第209回)
里彩が小窓の隅から密かに二人を窺っていたのだ。しばらく事の推移を観ていた里彩の姿はスッと小窓から消えた。
「おじいちゃま、おじちゃんが帰って来たわよ! この前の女と一緒!」
長左衛門の隠れ部屋へ入るなり、手下の里彩が口走った。
「保が? あの女と一緒? はて、なに用かの?」
「おじちゃん、結婚するのかしら? あの女と」
おしゃまな里彩は、大人びた口を利(き)いた。
「それは、このX-1号に調べてもらおう。だが、勝達には、まだ秘密じゃから、これをどう説明するかを考えねばならん」
長左衛門はX-1号を指さしながら言った。帰省した保にとって幸いだったのは、長左衛門が沙耶をアンドロイドだと、まだ知らなかったことである。バレていれば、科学者・長左衛門に攻撃される可能性もあった。
『私をX-1号と呼ばれるのは拙(まず)いと思いますが…』
X-1号が反応して語りだした。
「おお、そうじゃった。呼び名を考えずばなるまい。里彩よ、何か手頃ないい名はないかのう」
里彩は微笑んで首を捻った。
『里彩ちゃんには、些(いささ)か難しいでしょう、この手の問題は』
「ホッホッホッ…そうじゃった、そうじゃった。出来のいい孫ゆえ、頼り過ぎたわい」
『設定は東京のご友人、三井(みつい)様の子息、名は・・・肇(はじめ)とでも』
「おっ! 上手いのう。さすがは、わしが開発したX-1号じゃ。いや、今日からは三井と呼ぼう。勝らには、どう説明する?」
長左衛門は三井を窺(うかが)った。