水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 代役アンドロイド 第198回

2013年05月12日 00時00分00秒 | #小説

    代役アンドロイド  水本爽涼
    (第198
回)
「おお、これは岸田君の…。それに誰でしたっけ? ナントカさんのお従兄妹さんでしたな?」
『若林です』
「そうそう、そうでした。岸田君の友達のお従兄妹さん。歳をとると忘れっぽくていかん、ははは…」
「孫がいつもお世話になっとります」
 そこへ、長左衛門が話に割って入った。
「あっ! 先だっては態々(わざわざ)…。で、今回は?」
「いやあ~、この大学の…。私、これでも卒業生でしてな、ははは…。自慢話は余り好かんのですがのう。実は、二寮会で久々に一同が会することになりましてな、ホッホッホッホッ…」
「ああ帝大の…。聞いております、父から」
「ほう、父上から…。不躾(ぶしつけ)じゃが、貴殿の父上はなんと申される?」
「山盛源太郎ですが…」
「おおお!山盛源太郎君!! これはなんという奇遇じゃ! 私と山盛君は同窓でした」
「はあ! そうでしたか。父が聞けば喜んだと思います」
「今、お父上は?」
「数年前に他界いたしました」
「左様でしたか。それは、ご愁傷でした」
「有難うございます。父と昵懇(じっこん)の方にお会いできるとは、嬉しい限りです」
 教授は柔和な笑みで片手を差し出し長左衛門と握手をした。まるでドラマだ…と、保ロッカーの白衣を着ながら聞いていた。その横には沙耶がいた。
『どうしよう? 私。帰ろうか?』
「おいおい、身捨てるなよ俺を。もう少しくらい、いいだろ? せめて、じいちゃんが帰るまで」
 保は片手を広げて手の平を縦にし、頼み込むポーズをした。


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