代役アンドロイド 水本爽涼
(第199回)
この二人の会話は、長左衛門と教授からは少し離れているが、もちろん小声の会話だ。
『分かったわ。じゃあ、そうする』
「って、滅茶飛ばしで来てくれたのは俺をガードするためだろ?」
『あっ! そうだったわ。忘れてました』
「…ったく、頼むぜ」
そのとき、後藤が保と沙耶を遠目に見て言った。
「そこのお二人さん、なにブツクサ話したはるの?」
保も沙耶も一瞬、氷結して黙りこんだ。出来の悪い後藤に見られていたとは手抜かりだ…と保は自己批判した。沙耶は何もなかったように頬を膨らませて感情システムをコントロールしている。いたって冷静なのだ。そこがアンドロイドで、人間のように表情を表に出さないし、発想もしない利点に思えた。ブラブラと沙耶は研究室を見回っている。過去に数度、訪れていて、ほとんどすべてのデータは集積済みだから、取り分けて見回ることはないのだ。今回の場合は、飽くまで後藤に対するカムフラージュだった。一方、教授と長左衛門は大層、話が盛り上がっているのか、後藤と保、沙耶の話はまったく聞こえていない態だった。ただひとり、取り残されているのが但馬で、どこの話へも参加できず面白くないのか、苦虫(にがむし)を噛み潰(つぶ)したような顔でパソコンのキーを叩いていた。
「では! 私はこれにて暇乞(いとまご)いを! 保!! 元気でのう! また、寄るでのう!!」
ひととおり教授との積もる話が終わったのか、長左衛門はそう言って山高帽を被るとドアを開けた。保にすればやれやれで、寄らなくていいよ…と思いながらも笑顔で片手を振った。
「また、お越し下さい。歓迎いたします!」
山盛教授は長左衛門が父親の同窓と聞き、送り出す態度が丁重だった。入口ドアが閉じられると、保はようやく解放されたように両手を広げて背伸びした。そのとき、また入口ドアが開いた。