代役アンドロイド 水本爽涼
(第216回)
「たぶん、間違いない。その三井はアンドロイドだ。沙耶のシステムが感知しなかったのも頷(うなず)ける。沙耶と同じシステムで再編成された人間の声だし、何人もの合成だからな」
『そっか…』
そのとき、勝が遠目に見て、二人を呼んだ。
「おい! なにを二人で話してるんだ! 保、こっちへ来いよ!」
「んっ! …ああ!」
保は微笑んで暈(ぼか)した。トメが命じたのか、三人の若い家政婦が交互にデザートの小皿を運んで各自が座るテーブルの前へ置いた。この動きを事前に察知していた沙耶は、応接セットに座らず書棚へ戻った。そして、手頃な一冊を手にすると、また読み始めた。皆の前へフルーツの小皿が置かれ、添えられたフォークで全員が食べ始めたとき、保は危ない危ない…と沙耶の機転にホッとした。沙耶が書棚へ移動したのはトメが三人の若い家政婦に命じた微細な声を音声認識システムで感知したときだった。その俊敏さは僅(わず)か0.5秒で、移動速度も並の人間の数倍だった。変に思われるのを避けて自重したのだ。保が止めた時速300Km以上での移動は、さすがに憚(はばか)られた。だから全員が一瞬、んっ? と思う程度だった。
「沙耶さんは駄目じゃったのう。それにしても、大丈夫なのか? 保よ」
「えっ!? ああ、大丈夫だと思う。それよりさあ、じいちゃん。書生を雇ったんだって?」
あの長左衛門が一瞬、手を止め、ギクリとした。