代役アンドロイド 水本爽涼
(第220回)
要は人間ならテンションを下げたということである。
「だったら、おじいちゃま。それまで三井をお借りしていいかしら」
里彩が、おしゃまな言い方をした。
「ほっほっほっ…、里彩の好きにしなさい」
長左衛門は孫の里彩には、からっきしで甘かった。
『里彩お嬢さまの言われるままに…』
三井はテンションを下げたままで、暗く従順に言った。長左衛門は、しばらく髭を撫でつけながら無口になった。
「…そういや、三井の話も合点がいくのう。沙耶さんが物を食べなかったのも頷(うなず)けるわ。わしが三井のそのことを隠したのと同じじゃからのう」
「なんのこと?」
「里彩は分からずともよい」
長左衛門にそう言われ、里彩は少し不機嫌になった。
その頃、保は山盛研究室で欠伸をしていた。自動補足機が日の目を見なくなって以降、研究室は熱気が失せていた。
「岸田君、その後、飛行車のキャド(コンピュータ設計支援ツール)は、どうなってるかね?」
怠惰感が充満する室内に山盛教授のひと声が響いた。保は思わず欠伸(あくぴ)をおし殺した。
「は、はい…。もっか進行中です!」
「そうかね…。急がないから、よろしく頼むよ」
いつもなら教授のご機嫌を伺う但馬もテンションが今一、上がらないのか、小判鮫ぶりを発揮しなかった。