代役アンドロイド 水本爽涼
(第236回)
その後は二人で手当り次第に料理を平らげ、わずか半時間で、すべては食べ尽くされた。隣室の三井は、すでにベッド上で停止し、冷たくなっていた。人間なら冷たくなる場合は些(いささ)か問題で、病気とか死を意味することもあるが、アンドロイドの三井には、むしろ逆に薬となり、熱冷却に有効だった。人の疲れは筋肉の凝りとか、けだるさだが、三井の場合は基盤や回路が熱を帯びることである。もちろん、自動制御の冷却機能により熱は放散されていたが、この夏の季節、外気温の高さは馬鹿にならず、三井としては、ようやく体熱を下げられる状況に至ったのだ。とにかく、そういう状況で、その夜は更けていった。
「三井よ、昨夜、里彩とも話しておったのだが、保のところへ行こうと思うておるのじゃ。連絡を入れようと思おたのじゃが、その前にお前に訊(たず)ねておこうと思おてな」
『そうでございましたか。それは賢明なご判断かと存じます。こういうことは万事、タイミングというものがございます。この三井が悪いようには致しませんので、しばしご猶予を頂戴致したく存じます』
「そうか…。では、そうしようかのう。それにしても、相変わらず堅苦しい物言いじゃわい。わっはっはっはっ…」
久しぶりに長左衛門の会心の大笑いが出た。
「すみません。そのようにお作り戴いておりますもので…。では、そういうことで一日だけお待ち下さい。あらゆる情報とデータにより、ベストタイミングを探ることと致します」