代役アンドロイド 水本爽涼
(第246回)
手渡された皮鞄(かばん)から、長左衛門は徐(おもむろ)に見合い写真を出した。沙耶が手盆に茶碗を載せてキッチンからやってきた。茶菓子はすでに机上に配置され、準備済みだった。
「このお方なんじゃがな…。どうじゃ?」
長左衛門は保の前へ見合い写真を広げて差し出した。沙耶はその写真を一瞬、垣間見ただけで、茶碗の乗った茶托をゆっくりと机の上へ置いた。人間なら一瞬では、よく分からないが、アンドロイドの沙耶にはそれで十分で、写った着物姿の女性を映像化データとして解析できるのだ。その女性の年齢、住所、勤務先、名前、性格etc.のすべてが、瞬く間に解析された。しかし、億尾(おくび)にも沙耶は出さない。当然、その情報は三井にもデータ化され分析されていた。
『どうぞ…』
「ああ、すみませんな、沙耶さん」
そう言うと、長左衛門はゆっくりと茶碗を手にし啜(すす)った。里彩も続いたが、彼女の手はすぐに茶菓子へ伸びた。三井は茶碗や菓子に手を出さない。
『三井さんも、どうぞ…』
「ああ、こいつは日本茶が駄目でしてな、はっはっはっはっ…」
長左衛門が、しまったとばかりに苦笑いで言い訳した。
『あらっ、そうですか。じゃあ、コーヒーを今、淹(い)れます』
「もう、構わんで下さい。こいつは今、医者に飲食を止められておりましてな」
『はい、ご好意だけ…』