代役アンドロイド 水本爽涼
(第233回)
「2秒06か…。まずまずじゃのう。以前より3秒ばかり縮まっておる」
長左衛門は満足げにそう言うと、ゆったりと顎鬚(あごひげ)を撫でつけた。
そして十日ばかりが過ぎた頃、長左衛門は三井と夏休みに入った手下の里彩を引き連れ、堂々の陣容で東京へ来襲したのだった。ただ、長左衛門に保達とバトルを繰り広げようという積もりはなかった、言わば状況を視察しようという偵察行動の類(たぐい)である。
東京駅の丸の内前広場である。
「おじいちゃま、浅草寺とかいいんじゃない?」
「おお、そうじゃのう。一度、お参りせねばと思うておったが…。三井よ、ルートの交通手段、ああ、それからその辺りで昼にしよう。適当な食事処(どころ)も調べてくれんか」
『かしこまりました…』
三井は一瞬、両瞼を閉じたが、すぐ開けた。
『ここからですと、タクシーの方が手間取らず早いかと存じます。お食事処は結構、有名店もございますね。私が着いたあとはご案内いたしますから安心なさって下さいますよう…』
「そうか…心強いのう。生き字引じゃわい、ほっほっほっ…」
高らかに長左衛門は笑った。東京駅前の通行人は、和服姿にステッキで立つ長左衛門へ物珍しそうに視線を向けた。長左衛門は、まったく意に介さない。三井の言うまま、三人? はタクシーで浅草寺界隈まで足を運んだ。