代役アンドロイド 水本爽涼
(第226回)
一瞬出来た空白の間合いに気拙(まず)さを感じたのか、「いや、つまらんことを言いました。気にせんで下さい」と、矢車は加えた。
「いや、まったく気にしてませんから…」
保は笑って受け流した。沙耶も機械的な愛想笑いをしながら軽く頭を下げ、その場を去った。保は内心、危ない危ない…と思った。それでも怪しまれずに済んだから、気分的には、ほっとして研究室へ戻った。一方、沙耶は辺りを見回し、人の姿がないことを確認すると瞬時に時速300Km超の速さで走り出した。道路に突然、疾風が巻き起こり、まるでリニアモーターカーのような通過だから、普通の人は面食らう感覚である。当然、木枯らしのような強烈な風塵を伴い木の葉などは吹き飛ばされた。およそ150Km離れた茨城の太平洋岸に沙耶は30分弱で到着し、何事もなかったかのように停止して歩き始めた。眼前には太平洋と半ば復興した漁村が展望できた。
「おめえ、凄いよな。お陰で助かるって、村の者は皆、言うどる」
『そんな…』
沙耶は疲れることなく、馬鹿力で普通の五人分は働くのだから、そう言われるのも道理だった。沙耶が参加した前からボランティア従事者はいたが、次第にその数は減り、この村では今や沙耶だけになっていた。だが沙耶は五人分を熟(こな)したから、一般ボランティアが五人いるのと何ら変わりなかった。漁村の復興状況は、元通りといかないまでも、震災前の70%方まで進んでいた。