代役アンドロイド 水本爽涼
(第234回)
『あちらです…』
慣れた仕草で三井が厳(おごそ)かに指さす方向を長左衛門と里彩は見た。そこには有名な大提灯が下がる寺門が展望できた。三人は参詣の後、界隈を適当に散策して楽しんだ。もちろん、遠出の全責任を受け持つ三井は楽しんでいる訳ではなかった。分刻みでミスせず予定を実行していく責任感だけで、人としての感情は希薄だった。その点が、ほぼ人間に近づいた感情システムを保持し、繊細なプログラムを内臓する沙耶とは異なっていた。長左衛門も多少、それが気がかりだったが、以前のような人が妙に思う行動や言動は失せていたから、敢(あ)えて見ぬ振りをしていた。二人が美味い洋食に舌鼓を打っている間、三井は店前でホテルの宿泊予約をしていた。
『はい…。三名ですから、よろしく。六時過ぎにはチェックインの予定です』
三井は電話をする前に、幾つかのホテルにターゲットを絞り、綿密なデータを入手していた。その後、最も適当と思えたホテルをピックアップし、電話したのである。だが、電話を入れるときにはホテルの空き室状況は察知していた。携帯端末と指先から出し入れできる自己端末を繋ぎ、情報入手したのだ。そんなことで、事がすべてスムースに運ぶのは道理だった。
午後七時過ぎ、東京タワーの夜景が鮮やかに浮かぶ某ホテルの高層の一室に三人? は存在した。
『私(わたくし)は隣にツイン部屋を取っておりますので、これで失礼して停止させて戴きます』