代役アンドロイド 水本爽涼
(第238回)
「と、言うと?」
『アンドロイドの行動と対応は予測不可能なのです』
「想定外の動きもあり得るということじゃろう。だが、それは人間とて同じじゃがのう?」
『いえ、先生。人の場合は音声認識システムで次の行動はほぼ推測がつくのです。機械の音声システムで発せられた声は推測できないのです』
「…なるほどのう、そういうことか。それは仕方なかろう。わしと里彩でその場はなんとかするとしよう。で、その他は?」
『あとは、すべて私にお任せを…』
「そうか。では大舟に乗った気分で行くとしよう」
長左衛門は得心したのか、頷(うなず)きながら顎鬚(あごひげ)を撫でつけた。
『すぐに動かれますか?』
「いや、そう急くこともあるまい。里彩もまだ眠っておるし、それにこの時刻じゃ。ちと、早かろう」
『では、昼過ぎにでも…』
「ふむ、そうじゃのう。そう致すとしよう」
そうは言った長左衛門だったが、三井の思惑は、まったく分からなかった。アンドロイドに内蔵されたマイコンが、考えに考えた挙句の行動と対応設定なのだ。人畜の及ばぬ発想に違いなかった。ただ、保側にも人畜の及ばぬ発想を持つ沙耶がいるのだから侮(あなど)れなかった。かくして、長左衛門陣営と保側の第一バトルが開始されたのである。
「あ~あ! よく眠ったわ…」
長左衛門が部屋へ戻り、里彩が起き出したとき、八時を少し回っていた。