「あなたは俺なんですよね?」
『ええ、紛(まぎ)れもなく、あなたです。ただし、異次元の…』
「異次元では一日遅れるんですかね?」
『ええ、そのようですね。私から見れば、あなたは一日先の未来を生きてらっしゃるように見えますが…』
「これから、ずっとおられるんですか?」
『いえ、そうではないみたいです。知人の話では数時間で消えるようでして、次の日、また出現するようです。そういうことが半年ほど続くとか言ってました。原因は知人にも分からなかったようで。むろん、私にも分かりませんが、ははは…。湯冷めしますので、上を着てきます』
よく話す奴だ…と戸倉は思ったが、瓜二つの自分が話しているのだから腹は立たなかった。男が奥へ消えると、たちまち静寂が辺りを覆った。ただ、ひとりのときの静けさとは異質の異様な恐怖の静けさだった。戸倉は男のあとを追って立とうか、このまま座っていようか…と迷った。結局、五分後に戸倉は立っていた。
クローゼットへ向かうと、男はパスローブを纏(まと)っていた。昨日の俺とまったく一緒だ…と、戸倉はふたたび、そら怖ろしくなった。
『おお、来られましたか…』
男は動きながら戸倉に話していた。そういや絶えず動き続けている男に、戸倉は少し奇妙さを感じた。
「あなたは止まりませんね?」
『ははは…そりゃまあ。私はあなたの過去を動いているのです。私の今は、あなたの過去の時の流れですから、止まれないんです』
そうなんだ…と、戸倉は思った。男の側面は厚みがなく見えなかった。完璧な二次元空間に男はいるようだった。