水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

不条理のアクシデント 第十話 変な人 

2014年01月28日 00時00分00秒 | #小説

 「あんたねっ! 勝手すぎるんだよ! もう少し、待ってくれてもいいだろ! ほんとに、もお~! 足が早いんだから!」
 山裾(やますそ)に沈もうとしている秋の夕陽を見ながら、勘一は呟(つぶや)いた。それを隣家の嫁、民江が窺(うかが)い見ていた。
「また、話してるよ、勘さん…。ほんと、変な人だよ。アレさえなけりゃ、いい人なんだけどねぇ~」
 そこへ旦那の芳三が顔を出した。
「どうした?」
「ああ、お前さん。ほら、アレ、見てごらんよ」
 芳三は民江が指さす方向を見た。勘一は山裾に半ば姿を隠した夕陽に向かって、まだブツブツと小言を垂れていた。
「大丈夫かねぇ~、あの人!」
「勘さんか…。まっ! アレだけだからなあ。見て見ぬふりでいいだろうよ」
「そうだね、いつものことだから…。でもさあ、なに言ってんだろうね?」
 民江は首を捻(ひね)った。
「さあなあ~? なにか、願いごととかだろうよ、きっと…。さあ、飯(めし)にしてくれ、飯に!」
「あいよっ! いい人なんだけどねぇ~」
 二人は奥へ姿を消した。隣では勘一が、まだ、ブツブツと話していた。
「そうでしたか…。忙しいんですね、あなたも。こっちの都合で語っちまって、申し訳ない…」
 芳三夫婦だけではなく、誰が見ても勘一は変な人だった。だが、真実は変でもなんでもなかった。太陽は勘一と語っていたのだった。
『いいえ、では…。また明日!』
「あっ! おいでに?」
 勘一は明日も晴れると確信した。

 

                    完


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