二人は美術館にいた。まばらな入場者達が絵画を観ながら、ゆったりと巡っている。その流れに沿って、少しづつ二人も流れた。
「贋(にせ)ものと贋のものとは違いますよ」
唐突に山崎が言った。
「はあ…」
田辺は入場券を支払ってもらった遠慮からか、聞く人になっていた。
「贋のものは本物もあり! なんです」
「はあ…」
「それに比べ、贋ものは贋もので、贋ものです」
「はあ…」
哲学的なことを諄々(くどくど)、講釈を垂(た)れる山崎に、田辺は辟易(へきえき)としていた。
「あの…贋物(ガンブツ)は、どうなるんでしょう」
田辺が唐突に山崎へ迫った。
「…が、贋物(ガンブツ)はガンブツでしょう…」
即答で返せず、山崎は言葉に詰まった。二人はゴーギャンの油絵の前で立ち止まった。
「私達は、どこから来て、どこへ行くんでしょうね…」
山崎は知識を披歴(ひれき)して、少し自慢げに言った。田辺に絵の知識は、まったくなかった。
「えっ?! …」
山崎はゴーギャンの絵を指さした。
「ああ、この絵が、ですか…。さあ…、来たところも分からないんですから行くところも分かりません」
田辺は素直に答えた。
「…」
山崎は返せなかった。自分にしては、よく出来た返答だ…と田辺自身にも、思えた。
THE END