『そうです。アチラの戸倉です』
異次元の戸倉は柔和な声でそう言った。
「ああ! アチラの戸倉さんですか。…どうも言いにくいなあ。アチトクさんで、いいですかね?」
『はい、それで構いません。そう、お呼び下さい』
「で、アチトクさん、なにか分かりましたか?」
『はい、全容が判明しました! あなたと私は空間の穴で結ばれていたのですよ』
「どういうことでしょう? もう少し、詳しく聞かせて下さい」
『はい。私の店内に次元通過をする空間の歪(ひず)みがあったのです。そこが異次元空間を結ぶ出入り口になっていた、と言っても過言ではないでしょう』
「なぜあなたのお店だけに空間の穴が?」
『さあ、それは私にも分かりません。ですから、あなたのお家にもその空間の歪みの穴があるはずなんです。もちろん空間ですから、あなたにも私にも見えません。私はその次元の穴に一定のサイクルで引き寄せられて移動しているようなのです』
「見えないのに、よくそのことが分かりましたね?」
『ああそれは、ひょんなことで…。焼き肉の煙が一瞬、その穴にスゥ~っと消えたのです。アレッ? って一瞬、思いましてね。よく見ますと煙がその空間の穴に吸い寄せられて消えていくじゃありませんか。もちろん、換気扇じゃありません』
「なるほど。そういう奇妙な現象がソチラではありましたか…」
『なぜ私の店だけ、という点が、まだ解明できませんが…』
「いえ、貴重な情報です。コチラも煙を使って調べてみましょう」
『はい、では…。長電話でお仕事のお邪魔をしました』
アチトクの声は少し小さくなった。