タバコの煙は最初、真っすぐ立ち昇っていたが、アチコチが近づけたある空間で、スゥ~っと換気扇に吸い込まれるように消えていった。
『今、あなたの次元に、この煙が出ているはずです』
アチコチは確信を込めて言い切った。
「なるほど…。少し理解出来たような気がします」
『偉そうに講釈を垂れておりますが、この私にもなぜこうなったかは、まだ分かりません…』
アチトクはタバコの火を灰皿で揉(も)み消すと戸を開け、外へ出た。戸倉は後ろに従った。表には戸倉人材店の大看板が飾ってあった。それに、戸倉の家は店舗風の改造をしたのか、幾らか大きく立派に見えた。そういや、店の机には四台の電話があった。戸倉の家は携帯のみで電話はなかったから、偉い違いだ…と、戸倉は思った。
『次元が違うと、こうも違うんだ…』
語るでなく呟(つぶや)くように戸倉は言った。
『ええ、まあ…。時間的にはあなたの次元より一日前ですがね』
「俺は、いつ消えるんでしょう? そして、どうなるのか…」
戸倉は不安げに訊(たず)ねた。
『私の経験からすれば、あと2時間ほどはコチラに留(とど)まれるはずです。ご心配される、消えてどうなるかですが、それは心配いりません。そのまま、あなたの次元へ瞬間移動します。場所は消えた位置ですから、消える可能性のある30分内外は、お家(うち)の中におられた方が安全です。外だと交通事故に・・ということにもなりかねませんから…』
アチトクは事細かに説明した。
「分かりました。おっしゃるようにしましょう…」
二人は店内へと戻った。