取ってつけたような嘘が、上手い具合にスンナリ出て、戸倉はホッとした。嘘も方便とは上手いこと言ったものだ…と、戸倉は刹那、思った。これなら異次元の向こうにずっといた方がいいな…という怠惰感も出てくる。というのも、人材屋は戸倉一人だから、どうしても無理にやってしまうのだ。切りをつけようとしても、アレコレと目につくことがあると手が出た。
それから一週間ぱかり日は流れたが、これといって異常な兆(きさ゜)しはあらわれず、異次元の戸倉ことアチトクは一度も現れなかった。戸倉は次第に超常現象の起因を探りたくなっていた。アチトクも探るとは言っていたが…とは思えたが、出現もなく電話連絡も入らないところをみると、まだ起因が判明できないんだ…と思えた。いつの間にかひと月が経ち、ふた月が過ぎると、戸倉の記憶もすっかり薄らいだ。
あるとき、出ようとしていた戸倉に、都合でキャンセルしたいという携帯が入り、仕事に空きが出来た。ドタキャンである。作業衣に着替えを済ませ、道具も車に積みこんで出ようとしていた矢先だったから、戸倉は少し怒れた。しかし、事情を聞けば依頼先にもハプニングがあったらしく、怒りは鎮まって了解した。そんな仕事の空きだったが、しばらく休めてなかったな…と思え、いい身体休めだな…と戸倉は思い返した。だが、この事実は異次元の戸倉の出来事と関連していたのである。そのことを戸倉もアチトクもまだ気づいていなかった。そのとき、異次元では異変が起きていた。本来なら、戸倉の昨日の現象が進行するはずだったが、科学では解明できない空間の歪みが生じたのである。戸倉がいる三次元空間では、すべてが科学で解明される・・とする。ところが、それはただ単なる三次元に生きる戸倉達人間の心の気休めでしかなかったのである。所謂(いわゆる)、三次元理論ともいえるもので、異次元ではまったく通用しない理論なのだった。それを証明する根拠は、宇宙の果てには何があるのか・・という思考に他ならない。宇宙は膨張している・・とか論ずる三次元科学だが、膨張という概念は有限の世界に通じる理論だった。