水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

短編小説集(42) 人材あります![15]

2014年01月10日 00時00分00秒 | #小説

 約2時間が経過したとき、事態が進展した。煙が流れ、引き込まれるように消える空間があった。戸倉は辺りを見回したが、風が入り込んだ形跡はなく、まさしく異次元に通じる穴に思えた。
「ここか…」
 やっと見つけた空間の狭間に、思わず戸倉は呟(つぶや)いていた。穴は見つけたが、それ以上はどうすることも出来ない。アチトクが言っていた異次元への口は見つけられたのだから、まあいいか…と、戸倉はそのまま放置した。
 次の朝が巡り、目覚めたとき、戸倉は妙なざわつきを感じた。人の気配が遠くで小さくしていた。俺以外に誰もいないのだから、人のざわつきなど起こる訳がない…と不審に思いながら戸倉は瞼(まぶた)を開けた。寝室の雰囲気が少しゴージャスになっている。確かに俺の部屋の様だが、置きものとかの部屋の調度も高級品になっている。こんなもの、置いた記憶がないが…と戸倉は訝(いぶか)しく思えた。
『やあ、お目覚めになられましたか』
 寝室のドアが開いて、アチトクが現れた。
「ここは…」
 戸倉はベッド上で半身を起こし、アチトクに訊(たず)ねた。
『ははは…昨日の戸倉さん宅ですよ。ただし、異次元ですがね』
「アチラですか?」
『いえ、こちらです。ははは…』
「はあ。まあ、そうなりますね」
『少しコチラも味わって下さい。それにしても、まさかあなたが現れるとは思ってませんでしたよ』
 アチトクはゆっくりとベッドへ近づき、戸倉の前へ座った。


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