戸倉は、ふと手を止めて部屋の隅の異次元へ通じる空間の穴の辺りを見た。妙なことにその空間穴は渦巻いていて、戸倉にも鮮明に見えた。戸倉は唖然として近づき、その空間穴を見続けた。確かに渦巻いている…と、戸倉が確信したとき、戸倉はクラッ! と目眩マイ(めまい)を覚えた。何かに身体が引き込まれそうになる幻覚が続いて戸倉を襲った。戸倉はその場に倒れ、気を失った。
戸倉が気づくと、店員と思われる若者が一人、必死に呼びながら戸倉を抱き起こしていた。どこかで見た店員・・アチトクがいた異次元か…と、戸倉には思えた。
「店長! 大丈夫ですか?」
「… … ああ」
戸倉はよろよろと立ち上がった。さっきまでの人材屋の風景が消えていた。机があり、憶えのある店員が他にもいる。どこから見ても異次元の戸倉人材店だった。見回したがアチトクはいなかった。それもそのはずで、アチトクはその頃、戸倉のいる人材屋へ現れていた。時空の歪みで、戸倉とアチトクの存在次元が入れ換わったのである。戸倉は自分の携帯番号を押した。
「はい! 私です」
『今、異次元にいますが、アチトクさんは?』
「あなたの人材屋です」
『そうですか…。どうも入れ換わったようですね。おやっ? アチトクさんに見せて戴いた店隅にある時空の穴が消えています』
「そうですか…。どうも、私達は入れ換わったまま、生きていかなきゃならないようですね、ははは…」
『笑いごとじゃないですよ! どうします?』
「失礼しました。しかし、どうしようもないじゃないですか、私達には」
「はあ、それはそうですが… ~~▽□※×=~~!!」
そのとき、携帯がノイズを出し、二人の電話回路は断たれた。以後、二人は異次元で別の人生を味わうことになった。
THE END