水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -68-

2015年10月03日 00時00分00秒 | #小説

[一つだけ、訊(たず)ねたいことがある]
━ なんだ? ━
[他のクローンが時空移動できるのに、なぜ私はできない]
━ 簡単なことだ。お前の細胞は地球生命体で出来ている。他のクローンは全員、地球外細胞で出来ている。この地球には存在しない物質だ ━
 地球外物質は、緑色の光を放ちながら、ふたたび的確なテレパシーを城水に送り返した。
[そういうことか。理解した。それと、もう一つ]
━ なんだ? まだ何かあるのか ━
[クローンはなぜ全員、城水なんだ?]
━ それは過去、我々がこの地球に降り立ったとき、偶然、居合わせたお前の母親が対象となったからだ。母体にいたお前の細胞が選ばれたのだ ━
[胎内の私の細胞をどのようにして?]
━ ははは…そんなことは、我々にとって容易(たやす)いことだ。地球科学では到底、理解できないだろうが… ━
[…理解した。では、私は坂の下のマンホールへ向かう]
━ 家の方は大丈夫か ━
[その心配はない。家族には知人に会うと言ってある]
━ そうか、では、指示に従え ━
 地球外物質は、ゆっくりと緑色光の輝きを消滅させた。城水は車を降りるとドアを閉め、施錠もせず静かに歩き始めた。


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