城水が車の座席に背を凭(もた)せかけた瞬間、背広の外ポケットにいれた地球外物質が緑色光を発し、ふたたび点滅を始めた。そして、点滅をやめると、安定した緑色光の輝きを維持した。
━ 状況は把握(はあく)出来たのか? ━
[おっ! おお…。ある程度は把握した]
突然のテレパシーに一瞬、戸惑った城水だったが、冷静に送り返した。
━ なぜ、お前の近くの坂の下が我々の出入口になったのか、は理解したか? ━
[いや、そこまでは聞かされていない]
━ そうか。その事情は何(いず)れ分かることになる… ━
通勤する坂の下が選ばれたのには、何か深い訳がありそうだ…と、城水は思った。家の前は、すぐ坂道になっている。中古物件を手に入れた城水だったから建設時の問題は何もなく、苦もなかったが、この勾配は…と思えていた経緯(けいい)があった。もちろんそれは、クローン化する前の城水だったのだが、近年起こった広島の土石流騒ぎを見聞きするにつけ、人ごととは思えていなかった。だが、今の城水は脳内分析の数値が駆け巡ったあとの判断だから、無科学的な心配は科学事象としてしなかった。すべての思考が機械的な分析の上で理論上有り得る内容を思考したのである。
[家族の者には今までどおりの態度でいいんだな?]
━ 指示がなければ、そのままでよい ━
[指令は地球を離れるまで、と言っておられたが…]
━ そうだ。我々が去ったあと、入れ替えに処置の編隊が飛来することになっている ━
呟(つぶや)くように、ゆったりと地球外物質は城水へテレパシーを送った。