水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -85-

2015年10月20日 00時00分00秒 | #小説

 地球外物質がテレパシーで伝えた午前0:00時から3:00時には、早い時間にした場合でもまだ4時間はあった。ただ、日付が変わる少し前に家を出るのでは怪(あや)しまれる公算が高い・・と城水の脳内数値は計算結果を示した。城水にも、その辺りの人間事情はよく分かっていたから納得出来た。深夜に会う人間は密会以外、そうはいないからだ。城水は9時過ぎに家を出て時間を潰(つぶ)すことにした。
「あらっ? 出かけなくてもいいの?」
 洗いものを終え、キッチンから居間へ入ってきた里子が訝(いぶか)しげに城水を垣間(かいま)見た。城水としては、気づかれぬよう意識して平静を装(よそお)っていたのだから、別段、どうという言葉でもない。
[んっ? ああ、こんな時間か…。そろそろ出るとするか。余り遅くなるのも、なんだしな]
 城水の言葉のあと、里子は寝室へ消えた。
 城水が家を出たのは、脳内数値の計算どおり9時過ぎだった。さて、これから3時間ばかりをどう潰(つぶ)すか…と、城水が脳内数値に問いかけていると、いつの間にか坂の下まで車で下りていた。坂道下には交番がある。藻屑(もくず)巡査と昆布(こぶ)巡査は日番ではなく、若芽(わかめ)巡査が欠伸(あくび)をしながらウトウトと首を縦に振っていた。そこへ城水の車が過(よぎ)った。目抜き通りではない上に、滅多と車が通らない夜の時間帯だから若芽巡査はハッ! と目を見開いた。城水が指定されたマンホールは、すぐ近くながらも、交番から見えない死角の位置にあった。


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