態々(わざわざ)、トンネル状の通路を移動しなくてもいいようなものだ…と城水の脳内を巡る計算式は不明の?信号を出した。だが、その城水の?信号は甘かった。
[ははは…君の考えていることは手に取るように分かる。それはそうだ。しかし、我々には地球上物質を運ばねばならない星からの義務が課せられているのだ。収集袋にミクロ化できない物質もこの地球上にはある。当然、それらを移動するには、それらの物質が通過できるスペースが必要となる。と、まあそれが、通路の理由である]
[ミクロ化できないその物質とは、いったい何なんですか?]
城水は思わず訊(たず)ねていた。
[それは、今に分かる。君は、今日見聞きしたことだけを理解すればいい。では、帰りなさい]
そう言い終わると、指令の姿は照射された光線が機体に吸いこれると同時に跡片もなく消え失せていた。城水は指令の言葉どおり、岩肌の出入り口へUターンし、中へ入った。あとは来たときの逆通路で、城水の両足は自然と光に乗るようにマンホール側へと移動していった。
城水がマンホールから出ると、宙に浮かんでいた蓋(ふた)はすぐに地上へ落ち、無音で閉ざされた。
僅(わず)か30分内外の時間ながら、城水には夢の世界の出来事だった。自分がクローン化したとはいえ、異星人達がすることは、すべて初めて見る絵空事だった。腕を見れば、まだ宵の口で、8時前だった。家に戻るにしては少し早い。といって、駅まで歩き、繁華街で時間を潰(つぶ)すには中途半端である。城水の脳は車内でしばらく眠ろう…と、単純な思考結果を出した。