水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -92-

2015年10月27日 00時00分00秒 | #小説

[あとは、お前に渡した物質の指示に従え]
 城水が駐車場へ歩き始めたとき、闇の中に指令のテレパシーだけが城水の脳裡に小さく届いて消えた。
 翌日の夜、UFO群は指令が城水に伝えたとおり、まったく痕跡を残すことなく消え去っていた。城水には、お見事と言うほかなかった。それは、城水の近郊の山々に降り立った一群に限らず、世界各地でも同じだった。
 飛び立つことなく地球に残った城水としては三年の間、異星人の最終決断を待つしかないのだが、このことは里子や雄静(ゆうせい)には細部の事情を伏せねばならなかった。地球は異星人達の執行猶予下に存在していた。だが、その事実を地球の誰もが知らないまま、時は進んでいった。城水には知らされていない異星人達の秘密が、もう一つあった。実は、城水家の坂の下にあるマンホールの中は異次元の地下駅になっていたのである。僅(わず)かな間に文明の利器を駆使して異星人達が作り上げた異星の駅は、その後城水家が、ここで待ち続けることになるのだ。現時点では家族はおろか、城水自身も知らない事実だった。その事実は地球外物質のテレパシー報告によって、不意に城水へ伝えられた。
 クローン化したとはいえ、城水もある意味で半分は人間であったから、UFO群が消え去ってひと月も経つと、次第に思考の変化で異星人感覚が薄れてきていた。
 そんなある日のことである。城水の緩(ゆる)んだ意識を覚ますかのように地球外物質が何の前兆もなく光り始めた。


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