会う相手もいないのに出かけることになった城水は、早々に夕食を済ますと、玄関を出た。
「変なパパ…」
キッチンから玄関へ向かうとき、雄静(ゆうせい)の声が城水の背中でした。城水は、少し妙だったか…と反省した。そんな疑問を感じた城水の脳内を数値と計算式が駆け巡った。そして、今の行動は正解だったと解答を出したのは。城水が家を出た直後だった。
外出の用はなかったが、久しぶりに外出する夜の街である。城水の心は、なぜか少し躍(おど)った。城水は適当に数時間、ブラつくことにした。夜の坂を車で下りるのは年に数度、あるか、なしだった。坂を下り切ると、いつもの駐車場へ車を止めた。
「あら! 城水さんじゃ、ありません? こんな夜分にどちらへ?」
駐車場に車を止め、城水が数歩、歩きだしたとき、ふと声が側面から聞こえた。そこには、駐車場の照明灯に照らされ、二人の女性が立っていた。相手が知っているのだから、恐らくどこかで遠目に見られていたのだろう。あるいは、里子が写真でも見せたか…と、城水の頭脳は計算式を駆使して正しい数値を出そうとした。だが、出た結果は?だった。
[ははは…どちらでしたかな?]
「あら、嫌ですこと。お見忘れ? 若狭の家内ですわ」
「奥さま、お出会いはお写真だった、ざぁ~ますでしょ」
「あらぁ~そうでしたかしら、ほほほ…私としたことが…」
もう一人の奥様風の女性に指摘され、若狭夫人は相好を崩した。若狭夫人のデータは城水の脳内データに入力されていた。