どうも最近、ムラムラする・・と、馬宿(うまやど)景太は思った。夜になると、なぜか腹が減って寝られないのだ。退職してから、この傾向が強まったように馬宿には思えていた。初めのうちは即席のカップ麺でなんとか凌(しの)いだものの、人間とはどうも欲深(よくぶか)に出来ているようで、馬宿は次第に内容をグレードアップしていかざるを得なくなっていった。本能的な欲望の叫びに勝てなかったのである。即席のカップ麺だったものが生麺カップとなり、やがては自(みずから)、袋入り麺をスーパーで買い、それを調理するまでになっていった。
「よし! まあまあだ…」
出来上ると、馬宿は味見して、満足げにそう言った。当然、そのあとは食した。食べ終えてすぐ、眠気が馬宿を襲った。馬宿はこれで眠れる…と、胸を撫(な)でおろし、眠りについた。だがそのパターンもそう長くは続かなかった。馬宿が、さてどうしたものか…と思いあぐねていた深夜、遠くで夜鳴きそば屋が吹くチャルメラの音がした。馬宿の足は瞬間、無意識に動いていた。言うまでもなく、外の夜鳴きそば屋をめざして、である。
「毎度! また、ご贔屓(ひいき)に!」
勘定を済ませ店を出ると、暖簾(のれん)越しに屋台の主(あるじ)の声がした。家に戻(もど)ったとき、眠気が俄(にわ)かに馬宿を襲った。馬宿はこれで眠れる…と、胸を撫(な)でおろし、眠りについた。だがそのパターンもそう長くは続かなかった。ついに馬宿は夜鳴きそば屋を開業することにした。
THE END