水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

ユ-モア短編集 [第93話] おつり

2016年02月28日 00時00分00秒 | #小説

 日曜の朝、徳山光二は退屈まぎれにスーパーで買物をしていた。もう買い残しはないな…と思え、徳山はレジへと向かった。レジの空いたところで勘定を済まそうと入ると、手ぶりから見てまだ馴(な)れていないと思える若い店員が対応した。次々にレジ価格が入っていくPOSシステムはいつもながら便利だ…などと、偉(えら)そうに思っていると、すでに清算に入っていた。
「¥4,033です…」
 ここで徳山はミスった。いつもなら¥5,100を出し、おつりは¥1,000札で貰(もら)うシステムを徳山はとっていた。ところが、である。ついつまらなく思っている間に¥5,000札のみを出していたのである。当然、店員は機械に清算させ、お釣りの¥967を手渡した。このとき徳山は、ハッ! とミスに気づいた。清算は終わっていたから、もうあとの祭りである。徳山の脳裡(のうり)に悲しい演歌のカラオケが侘(わ)びしく流れた。財布にお釣りを入れ、硬貨を残念そうに掻き回していると、¥500硬貨が二枚あった。
「あのう…これ¥1,000札に交換してもらえませんか?」
「…それは出来ません」
 店員の愛想ない返事が返ってきた。まあ、店員には悪気はなく、店のマニュアルどおりに言ったのだろう…と徳山は思った。経済学でいえば確かに取引は済んでいた。だが、徳山はまだ取引の場を離れた訳ではなかった。その状況は、その場を去ってから換金を願い出た場合と明らかに相違しているのだ。まあ、出来ない・・と言われればそれまでだが、その辺(あた)りがサービスのように思え、買ったものを袋に入れると、徳山は店をあとにした。今ではレジ袋もお金がいる時代になっていた。家に帰り、徳山が財布の中のおつりを見ると、いつ入れたのか、その中に印籠(いんろう)が入っていた。何を隠そう、恐れ多くも、このお方こそ先の副将軍、従三位中納言、水戸光圀公にあらせられる…訳がなかった。

                THE END

 注:¥500硬貨2枚を¥1,000札に換金する一つの方法として、2枚を金融機関へ預貯金で預け、¥1,000引き出せば、¥1,000札は入手できます。^^


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする