水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

ユ-モア短編集 [第67話] あからさま

2016年02月02日 00時00分00秒 | #小説

 船路(ふなじ)灯輝(ともき)は風変わりな老人画家として世に知られていた。彼は思ったことをズバッ1 とあからさまに言う性格だった。ズバッ! と言う・・とは、単刀直入(たんとうちょくにゅう)の直球で語るということだ。インタビューが、この性格から中断されたことは幾度もあった。
「え~~、受賞されたご感想は?」
「ははは…下さるんなら、いただきましょう・・ってとこですかな。それより、アンタのネクタイ似合ってないよっ」
「えっ? …大きなお世話ですよ!」
 今日も、取材が中断された。旋毛(つむじ)を完全に曲げた取材記者をアレコレとカメラマンが慰(なぐさ)めた。
「やめやめっ!」
 取材記者の怒りは鎮(しず)まらず、先に帰ってしまった。カメラマンは、ペコリ! と船路にお辞儀すると部屋を出ていった。
「ふんっ! 世話の焼ける奴だ。初めから来なきゃいいじゃないかっ!」
 船路はそう吐き捨てると、またキャンパスに向かい、色を塗りたくった。
 そんな船路が国営放送に討論会に特別ゲストとして登場した。制作サイドの思惑は、建前(たてまえ)で語る論客に飽(あ)きがきたからだった。アナウンサーの沈着かつ冷静な質問に対し、船路の強烈であからさまな発言が飛び出した。
「はははは…。あなたはお仕事ですから、あなたに、とやかく言うつもりは毛頭ございませんが、私に言わせりゃ、この討論会は茶番劇ですな。いや、失礼…」
「と、申されますと?」
「与野党とも、しっかりしたことを言っておられる。よく聞いておれば双方とも間違っておらないように聞こえる。ははは…実は、双方とも、少し間違っておるということですかな」
「例(たと)えば?」
 MCの解説委員が訊(たず)ねた。
「細かく言いますと、枚挙(まいきょ)に暇(いとま)がない。あからさまに言えば、まあ、皆さん、テレビ目線の立場で語っておられる。これが居酒屋かなんかで、一杯ひっかけながら美味(うま)いツマミを味わい、赤ら顔で語ってみなさいな。あからさまで、返って上手い具合に。ははは…そうはいかないでしょうがな。では私はこれで。仕事がありますのでな。あっ! どうぞ、立て前をお続け下さい」
 テレビ中継の途中にもかかわらず、船路はスタジオから退席した。その後、憤慨(ふんがい)して誰も発言する者はいなくなり、中継画面は途絶えた。
[番組の途中ですが、予定を変更いたします]
 音楽が流れ、テレビ画面にはテストパターンと字幕が映し出された。テストパターンだけが、あからさまだった。

                    THE END


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