フラッシュ・メモリーをパソコンのUSB口に差し込み、Enter Keyを押す。すると、すぐ、入力したデータのアスキー・ファイルが立ち上がった。ひと月ほど前、プログラムしてバイナリ・セーブしておいたファイルをRUNさせ、アスキー・ファイルとして保存したファイルである。
[1]ウイルス・ベクター
(1)ガンマ・レトロウイルス
(2)レンチウイルス
(3)アデノウイルス
(4)アデノ随伴ウイルス
(5)単純・ヘルペスウイルス
「いろいろ、あるけど、どうなのっ? って、直接、ウイルスさんに訊(たず)ねてみたいくらいのものだな…」
この海老尾のSF思考の呟(つぶや)きが、後日、現実のものになろうとは、誰も思うやに出来ない。
赤鯛と飲んだ酔いが残っていたせいか、海老尾はデスクに突っ伏して、いつの間にか眠り込んでいた。気づけば、すでに日は変わっており、深夜の二時過ぎになっていた。
「まあ、いいか…」
何がいいのか分からないが、海老尾はそのまま寝室へ入り、二度寝することにした。海老尾の海老尾たる所以(ゆえん)である。海老尾は夢を見た。
『海老尾さん、海老尾さんっ! 起きて下さいよっ!! こんなところで寝ちゃ、風邪(かぜ)引きますよっ!』
海老尾はデスクに突っ伏して眠っていた。
「…んっ!?」
肩を叩(たた)かれたような気がした海老尾は、寝ぼけ眼(まなこ)で辺りを見回した。誰もいる訳がない…とは思うのだが、声を感じたのは事実だった。
続