市街を走る衆議院議員選挙の街頭演説カーが忙(せわ)しなくガナっている。海老尾は、ふと眼下に広がる人だかりに視線を落とした。
『ワクチンは効くんですっ!』
須下(すげ)前総理が多くの聴衆を前に熱弁をふるっている。海老尾はその光景を第三者の目で見ていた。
「今のは…。これからのは効きますよっ!」
海老尾は、暗に治験が始まったモレア効果を思い描きながら呟(つぶや)いた。しかし、一瞬、テンション高く思った海老尾だったが、承認されるのは、いつのことやら…と、現実を思い、すぐローテンションになった。
「そろそろ選挙だね…」
「ですねっ…。しかし、どうなんでしょう?」
「なにがっ!?」
蛸山は電子顕微鏡のモニターから目を離し、訊(たず)ねた。
「投票結果ですよ…」
「投票結果? そんなの決まってるだろ…。全然、変わらんよっ! 財源のムダ遣いっ! ははは…これは少し、言い過ぎか」
蛸山は肩が凝ったのか、首を蛸のようにグニャリと回した。
「ですよね。与党以外は政策集団化してますから…」
「ああ。与党の思う壺(つぼ)だよ。与党に勝つには小異を捨てて大同につかんとなっ!!」
「それが出来ないのは、与党以外の議員の責任だと!?」
「ああ、まあ、そうだ…。波崎さんの予算折衝[ヒアリング]もショボくなるように思える」
「変化がないと?」
「そう! 変化がないならまだいいが、当初の調定額が減額されるようなことにならんといいが…」
「それは、ないでしょ!」
「いや、分からんぞ。一強は、何でも出来るから怖いっ!」
「なるほど…」
一強の独裁政治を思う二人は沈黙し、話はその後、途絶えた。
続