水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

SFユーモア医学小説 ウイルス [36]

2023年02月17日 00時00分00秒 | #小説

「それはそうと、話を戻(もど)しますが、所長のお隣(となり)の奥さんの旦那さんの親戚の犬なんですが、チワワでしたっけ?」
「ははは…よくは知らんが、そうらしいな」
 海老尾は、知らんのかいっ! と思ったが、暈(ぼか)して愛想笑いした。
 その日の夜、眠りについた海老尾は夢を見た。例のウイルス、レンちゃんだった。
『お久しぶりです…』
「んっ!? ああ、レンちゃんか…」
 海老尾は夢を見ていた。見てはいたが、その映像は今、寝ているベッドの中に違いなかった。現実の海老尾は夢を見て眠っているのだが、夢の中の海老尾はベッドに上半身を起こした。寝室の暗闇の空間を朧気(おぼろげ)に漂う薄明るい存在、その存在から発せられるテレパシーで海老尾とウイルスは会話していた。
『所長の複雑な関係の犬が捻挫(ねんざ)したそうですねっ?』
「ははは…よく知ってるじゃないか」
『そりろゃそうですよ。僕はあなたの夢の中のウイルスなんですから』
「ああ、そうだったな…」
『ところで、小難しい話はさて置いて、研究は進んでられるんですかっ?』
「ああ、まあな…。鳴かず飛ばず、ってとこだよ」
『余り進んでないんですね?』
「いや、進むことは進んでるんだ。ただ、組織がお役所仕事だから、認められるまでが大変なんだよ」
『分かります。お役所は民間と違って融通が利きませんからねぇ~』
 レンちゃんは相槌(あいづち)を入れた。

                   続


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