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水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

SFユーモア医学小説 ウイルス [24]

2023年02月05日 00時00分00秒 | #小説

 今朝は日曜だから研究所へは行かずに済む。与えられた天下の休日で、自由に過ごせる24時間だった。海老尾は美味(うま)いブルマンを啜りながら、休日にフラッシュ・メモリーも、ないよな…と、仕事から 離れることにした。
 海老尾の趣味は十年来、手がけている盆栽である。最初は幾鉢も枯らしたが、最近になって要領を得たのか、枯らすことも、ほぼなくなった。マンションのベランダ越しに設けた盆栽棚に数鉢を置き、部屋内にも二、三の鉢を置いていた。その鉢に水や肥料をやったり、ガラス越しに鑑賞しながら、ゆったりと室内のソファーに身体を預け、本を読む。小気味よい秋風が弱く抜けると、疲れもあってか、海老尾は伊勢海老とはいかないまでも、大正海老ぐらいの姿でウトウトし始めた。
『海老尾さん、海老尾さんっ!!』
 海老尾は、眠りの中で肩を軽く叩(たた)かれた。 
「おう! 昨日(きのう)の…」
 夢の中の海老尾は、夢だとは認識していた。
『そうですよっ! レンチですよっ! 少しお話、しませんかっ!?』
「ああ、いいよ。本、読んでた、だけだから…」
 軽く海老尾は応諾(おうだく)した。
『あなた、僕のこと、どう思ってますっ!?』
「どう思ってるって…どうも思ってやしないさ」
『攣(つ)れないなぁ~、その言い方っ!』
「じゃあ、どお言やいいんだっ!?」
『そうですね…レン君、とでも…』
「レン君…なにやらレンコンみたいだな、ははは…」
 海老尾は夢の中で笑った。
『蓮根(はす)のレンコンですか、嫌(いや)だな、その例(たと)え…』
「じゃあ、どうしよう…」
『レンちゃんで、いいです…』
「じゃあ、そうしよう」
 抗(あらが)わず、夢のウイルスへ海老尾は素直に応じた。

                   続


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