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水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

SFユーモア医学小説 ウイルス [33]

2023年02月14日 00時00分00秒 | #小説

 海老尾が蛸山から聞いたややこしい関係[蛸山所長の隣の奥さんの旦那さんの親戚]の家を赤鯛が治療に出向いたのは、その二日後だった。
「あの…蛸山所長からお聞きして来ました赤鯛と申します」
「ああ、獣医さんのっ!」
「はあ、まあ…。今は研究所の所員なんですが…」
「態々(わざわざ)来ていただいて恐縮ですわ、ほほほ…」
 赤鯛は、ほほほ…は余計だろう…とは思ったが、口には出来ず愛想笑いでスルーした。
「ワンちゃんが散歩中に捻挫(ねんざ)されたんでしたね、確か…」
「はい、この子ですのよ、ほほほ…」
 よく見れば、とても捻挫しそうにないチワワだった。
「どれどれ…」
 赤鯛は包帯を巻かれたチワワの右前足を目視した。
「ああ、この程度でしたら、私が来るほどのこともなかったですね…。ギブスは必要ありません。固定治療と念のため、痛み止めをお出ししましょう」
「有り難うございます、助かりますわ、ほほほ…」
「はあ…」
 また、ほほほ…かよ…と、赤鯛は、ふたたび思った。
「あの…治療費は、いかほど?」
「いえいえ、そんなものは頂戴できません。私、これでも研究所勤めの公務員ですから…」
「あら、そうでしたわ。失礼しました…」
 帰り際(ぎわ)、赤鯛は、ややこしい関係[蛸山所長の隣の奥さんの旦那さんの親戚]の家の奥さんから手渡されたリンゴ三個入りの袋を手に帰り路についた。

                   続


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