幽霊パッション 水本爽涼
第五十回
「どうも、どうも…。態々(わざわざ)、恐れ入ります」
佃(つくだ)教授の出迎えに対し、上山は相応の日本的礼儀で返した。
教授の後方に従い研究室へ入ると、三人の助手が手を止め、上山に軽く一礼した。上山もそれぞれ三人に軽くお辞儀して黙礼で応じた。一端、手を止めた助手達は、ふたたび何やらよく分からない手作業を始めている。上山も白衣で研究する場はいろいろと知っていたが、こういう奇妙な研究の場というのは、人生で初めて体験するものだった。科学者が白衣で首に数珠(じゅず)を掛け、一心不乱に何やら念じてはノートらしき用紙に書き込んでいるのである。
「皆さん、何をしておられるのですか?」
上山は思わず教授に訊(たず)ねた。
「ああ…連中ですか? 彼等は私が命じたデータをとっておるだけです」
「はあ…そうですか」
上山は唖然として二の矢が放てない。教授の言葉を素直に鵜呑みにした。研究室の雰囲気は滑川(なめかわ)教授の室内とは比較にならないほど明るく整っている。しかも、弟子ともいえる助手が三人以上いるとなると、これはもう、本格的な研究所である。ただし、滑川教授とは研究分野がまったく違うから、比較対照にはならないのだが…。
「教授にひとつお伺いをしようと思っていたのですが…」
上山は前を歩く佃(つくだ)教授へ、後ろから小声をかけた。教授はギクッ! として立ち止まり、振り返った。
「ほう! 何でしょう? 私で分かることなら、なんなりとお訊(き)き下さい」
「いやあ、そんな小難しい話ではないのですが…」
「まあ、云ってみて下さい」
「教授が製造された滑川(なめかわ)教授の研究所にある機械についてなんですが…」
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