幽霊パッション 水本爽涼
第四十九回
幽霊平林に近日中には目鼻をつける、と云った上山だったが、会社の勤めは無視できず、仕方なく次の土、日まで待つことにした。ヒラならまだしも、一応は課長という管理職にいる手前、そう簡単に会社を休むという訳にもいかなかった。しかし、モノは考えようで、一週間のうちには滑川(なめかわ)教授も佃(つくだ)教授へ電話しておいてくれるだろう…という確率が非常に高まるのである。その一週間は瞬く間に過ぎていった。
…そうか、一週間経ったんだ…と、上山は思った。土、日休みの前日の金曜日、上山は秘かに携帯で佃教授へコンタクトをとった。
「詳細は、おとといでしたか、確か。滑川さんから聞いております。私の方は、いつ来て戴いてもよろしいですよ」
佃教授は温厚そうな口調で、ゆったりと答えた。上山は、土曜日でも参上致します、と云って携帯を切った。あれだけよく現れていた幽霊平林が、気になるほどさっぱり現れなくなり、上山は心理的な余裕を取り戻す一方、寂しさも同時に味わっていた。迷惑げに話していたとはいえ、親密味もあったから、余計にそう思えたのである。そんなときは、まあ、いいか…と自分を慰める上山であった。それに、余程のときは、首を一回転すれば、それが合図で幽霊平林が現われるという安心感もあった。
佃教授の研究所は滑川教授のそれとは違い、なんとも整理整頓が行き届いた研究所で、若い助手らしき青年も三人ばかりいた。三人ばかりとは、今日、研究室に来ていない助手がまだいるとのことで、上山には把握できなかったのである。
「ああ…、こられましたか。私が佃です」
現代建築の粋をこらした建物の通用門を抜けると、まず佃教授のこの言葉が上山を出迎えた。教授は、正面玄関の入口に立っていた。そして、笑顔で上山を手招きした。
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