影車 水本爽涼
第一回 悪徳商法(9)
51. 大黒屋の店内(座敷牢・外)・夜
お美代、猿轡(さるぐつわ)、体を括(くく)られ牢の中。
嘉兵衛「悪いようにはしない。しばらく我慢するんだよ(嗤う)」
52.大黒屋の店内(座敷牢・内)・夜
お美代、抗う。身体の自由が利かない。嘉兵衛、いやらしく嗤う。
53. 茶屋(狭い路地)・夕暮れ時
仙二郎と、お蔦が話している。
仙二郎「また歩くぜ…」
お蔦、仙二郎の後ろに従う。
54. 街路の河堀(橋の上)・夕暮れ時
柳、屋形船あり。仙二郎、欄干(らんかん)に凭(もた)れている。
お蔦 「大黒屋と戸田が、つるんでるのは間違いない。ただ、今の
とこ、何を企(たくら)んでやがるか迄は…」
仙二郎「手筈はワルというだけじゃ、俺達の掟(おきて)では、つけ
られねえからなぁ…。暫(しばら)く、泳がすしか手はある
めえ」
お蔦 「そうだねえ。入札(いりふだ)がどうのこうの、とは語ってや
がったが」
仙二郎「大黒屋は大ワルだ、何をしやがるか…。探り、続けてくれ」
お蔦 「あいよっ!(手の平を出す)」
仙二郎「ちぇっ、出費が、かさむぜ…」
とボヤき、懐(ふところ)の財布から1朱銀、二枚を出し、手渡す。
お蔦、笑って受けとると目を閉じ、瞽女(ごぜ)に戻る。杖をつき
去る、お蔦。それを見遣る仙二郎。
仙二郎「ちっ、今夜の鴨鍋がフイになっちまった…」
と愚痴りながら、お蔦とは反対の方向へ去る。肩を落とし歩く仙
二郎の後ろ姿。
仙二郎「そうだ! また大黒屋から、せしめてやるか…(軽く笑っ
て)」
55. 運河(幅広)・進む御用舟、三艘・昼
上総屋の回船へ横付けする御用舟。数名の役人が各艘に乗り
込んでいる。
上役人「皆の者、抜け荷が必ず隠されておる筈じゃ。心してかか
れ!」
56. 上総屋の回船の中(積み荷を満載)・昼
荷を改める下役人(数名)
57. 回船の下(御用舟、三艘)・昼
知らせを待つ御用舟の上役人と配下。そこへ上から声がする。
下役人「ありましたぞぉ~」
上役人「おおっ、でかした。(仰ぎ見ながら)大儀!」
58. 回船問屋・上総屋の店内(帳場・土間)・朝
昨夜、帰らなかった、お美代、お照のことで店は混乱含み。お内
儀は蒼白。
長兵衛「恐らく大黒屋が仕組んだことに違いない。私ゃ、これから
御奉行所へ訴え出るから、店の方は番頭さん、頼みまし
たよ」
頷く番頭、高助。お内儀を慰める長兵衛。息を切らし、そこへ
手代、多吉が駆け込む。
多吉 「…だ、旦那様! 大変でございます」
長兵衛「どうしたんだい?(心配げに)」
多吉 「こちらへ、御番所のお、お役人が、大勢でやって参りま
す…」
長兵衛「なんだって?!(驚いて)」
高助 「本当なのかい? 多吉、それは」
多吉 「は、はい…まもなく」
声が終わらないうちに、上役人が多数の下役人を従え、入ってく
る。
上役人「上総屋! 抜け荷のかどで召し捕る。神妙にお縄を頂戴
いたせ。それいっ!」
号令一過、下役人達が長兵衛、高助、多吉など、主だった店の
上層部を捕縛する。泣き叫ぶ、お内儀、お紋。
上役人「引っ立てい!」
お紋 「おまえさん…(長兵衛に、すがり)」
長兵衛、悔しそうな表情。後ろ手に縄を巻かれ、下役人に押され
暖簾を出る。。他の捕縛された者達も同様に外へ押し出される。
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