水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

短編小説集(95)渇[かわ]く <再掲>

2024年11月16日 00時00分00秒 | #小説

 地球環境の激変により、雨が降らない日々が半年以上続いていた。人々は我れ先にと水を求めた。だが、どの店にも飲料用のペットボトルはなく、人々は乾いた喉(のど)に耐えられず、貯水ダムの周(まわ)りの僅(わず)かに残った溜まり水へ群(むら)がっていた。一年前は誰一人として来なかったダム周辺の林道は車の長蛇(ちょうだ)の列と化していた。この都会の現象は、水の供給を時間制限から全面停止へと切り変えた時点で顕著(けんちょ)になった。コンビニや食料品店に人々が殺到し、瞬く間に飲料関係の製品は売り切れた。発注が相次いだが、肝心のメーカーには材料となる水がなかった。一時はメーカーへ供給していた淡水変換の海水処理施設は、すでにパンクしていて、供給の目途(めど)は立っていなかった。水洗トイレは用立たなくなり、都会には汚物による悪臭が漂(ただよ)っていた。下水処理施設は無能力化していた。それに伴い、都会の衛生環境は劣悪さを増した。アスファルトやコンクリートが剥(は)がされ、汚物処理用地の掘削(くっさく)が始まったが、肝心の工事従事者が喉(のど)の渇きで倒れ、工事は停止した。水分が手に入らなくなって以降、人々の動きは鈍化していった。
「ただいまから、緊急記者会見をお伝えします!」
 テレビの臨時番組である。画面に首相が登壇し、なにやら言い始めた。
『現在、起きております水不足による生活面への困窮に関しましては、国民の皆様には多大のご迷惑をおかけいたし、まことに恐縮いたしておる次第であります。政府及び関係省庁におきましては、早急に解決を計るべく、鋭意努力中でございますので、今しばらくのご辛抱をお願いする次第であります。え~ …』
 首相の会見は続いた。
『共同送信の肌白です。総理は今後、水不足が解消するとお考えでしょうか? そうお考えなら、検討されている具体策について、お話し下さい』
『むろん、考えております。ただ、その件に関しましては、国民生活の混乱を招きかねませんので、具体的にお話しすることは、現在のところ出来ませんので、ご了承を給(たま)わりたいと存じます』
『であれば、せめて、いつごろまでに解決されるお積(つも)りなのか、その時期だけでもお願いいたします』
『降水の変化によりますので、時期に関しましてはお話し出来る状況にはございません』
『死者が続出してますが…?』
『私も渇(かわ)いておるんです。しかし、ないものはない訳です。なんとかさせます、いや、なんとかします!』
 そのとき、映像が乱れた。TVカメラマンが水分失調で倒れたのだった。人々だけでなく、多くの動植物も同じ運命を辿(たど)っていた。この現象は地球規模で起こっていた。
 西暦××××年、地球上は完全に水分が消え去り、生物の屍(しかばね)だけが残る死の星となっていた。

                    THE END


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