幽霊パッション 第二章 水本爽涼
第七十八回
「ああ…。いやなに、そう云われると、なんか選挙に出馬する前の心境になるなあ」
『ははは…。問題はまだひとつ、あります…』
「なんだ、それは?」
『どこに現れるかです。それと、何をどうするか、です』
「そうだなあ。漠然と出現しても正義の味方には、なれん」
『そうです。退治する社会悪と、その方法を煮詰めてからの出現でなきゃ駄目です』
「その場所もな」
『ええ、少し話を煮詰める期間を設けましょうか?』
「ああ、そうしよう」
二人は石橋を叩いて渡る策を取ることにした。
二人が練った計画策は、まず上山の材料購入から始まった。材料とは、計画表を描くことで具体的に計画を遂行可能とする作戦表のようなものである。その行動による探索者は、もちろん幽霊平林である。上山は、この段階では田丸工業に身を置いているから、社内で気づかれないようにせねばならない。課長、最近、お疲れのようですが、何かあったんですか? などと云われぬよう注意が必要だから、敢(あ)えて実行者を外し、幽霊平林にした訳だ。彼の身には疲れなどないし、だいいち、国外への移動は容易なのだ。だから、上山は文房具と紙などを求める裏方をやる分担を引き受けた。
ノート、ケント紙、鉛筆、ボールペン、マジックなどの筆記具、日々の新聞、世界地図、パソコンなどを上山の書斎に揃え、新聞記事の主だったものをノートにピックアップし始めるのは三日後とした。そうして、纏まったところでケント紙に書き、二人で話を煮詰める手筈(てはず)を整えた。
そして、三日後である。上山の書斎の壁には買ってきたケント紙が画鋲(がびょう)で四隅が止められ、貼られていた。上山は徐(おもむろ)に地図帳を手前へ置き、数日分の重要記事を探し始めた。幽霊平林は上山の右隣り上から覗き込む格好でプカリプカリと浮いて漂っている。
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