水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 幽霊パッション 第二章 (第六十回)

2011年11月03日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                 
    
第六十回
「まあ、とにかく、私も正義の味方として華々しくデビューすることになるんだろうな、ははは…」
 気分がよくなったのか、上山は賑(にぎ)やかに笑った。
『そんな格好いいもんじゃないと思うんですが、僕は…』
「どうして?」
『どうしてって、昔から正義の味方ってのは、蔭(かげ)の立役者じゃないですか』
「んっ? ああ、まあなあ。それはそうだが…。正義の味方が、私が正義の味方の○○です! とは云わんわなあ…」
『ええ、そうでしょ?』
 夕食のことも忘れ、上山は幽霊平林と語り合った。辺りは完璧に夜になっていた。
「おお、もうこんな時間か…」
 腕を見て、上山が唐突に、ひとりごちた。
『すみません、長居しました。次は日曜の朝にでも寄らせてもらいます。今日は遅いですから、この辺で…。また、手を回して呼んで下さい。課長の訊(き)いてられたことですが、霊界番人様に云ってみます。それじゃ…』
「あっ! …」
 そんなつもりで腕を見た訳ではなかった上山が、そう発したとき、幽霊平林の姿は跡形もなく消えていた。
 次の日曜の朝である。この辺りから上山の身に新たな展開が始まろうとは、周囲の者ばかりか、本人自身もまったく想定していなかった。もちろんそれは朝、幽霊平林に出会ってからのことである。彼は洗顔中の上山が、ふと鏡に映る自分の姿を垣間(かいま)見たとき、その背後にスゥ~っと躍り出た。それは、上山が歯ブラシを洗い終え、ふと無意識に手をグルリと回したときだった。


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