水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 幽霊パッション 第二章 (第九回)

2011年09月13日 00時00分00秒 | #小説

  幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      
    
第九回
 その空き地は雑草が茂るでなく生えていた。茂るでなく、というのは、それなりに除草もされ、手入れされていることを意味する。
「ここの土地を使われてる、って訳ですね?」
「ええ、まあそうです。ほれ、すぐそこが少し窪(くぼ)んでおるでしょ」
 住職は空き地の片隅を指さしながら、手提灯(てぢょうちん)を幾らか持ち上げ、照らした。上山と幽霊平林は、その一点に目を凝らした。
「ああ、確かに…。で、おもち帰りの量は?」
「ははは…量などと呼べるものじゃないんですよ。ほんのひと握り、手の平に乗るくらいですから…」
「なんだ、その程度でしたか」
「んっ?!」
 その時、住職が暗い空を見上げて呟(つぶや)いた。
「ご住職、どうかされましたか?」
「いやなに…、今、青火が見えたような…」
「ははは…、悪いご冗談を。そんな馬鹿な話はないでしょ。気のせいですよ」
 危うい! と慌(あわ)てた上山は、すぐに否定して取り繕(つくろ)った。その上で漂う幽霊平林は、しまった! と、ばかりの、しかめっ面(つら)である。束の間の興奮により青火が頭上に灯ったのだ。幽霊に恐怖心はないものの、この場合の幽霊平林は少し顔の青さを増して蒼ざめた。上山は、なにしてんだっ! と一喝しそうになる口をグッ! と噤(つぐ)んで堪(た)えた。その瞬間、幽霊平林と目線がピッタリ合ってしまった。上山が睨むと、幽霊平林は気不味(まず)さからか、目線を落とした。
「いや、自慢じゃないんですが、この舞台寺は時々、出るんですよ、人魂が。私も何度か目にしております。最近では、名物と申しますか、世間の評判にも…」
 住職は暗い闇を見ながら、そう云った。そういや、交番でもそう云ってたな…と、上山は思った。


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