西暦2140年、人工重力装置の開発に成功した人類は、新(あら)たな星への移住を実行しようとしていた。人類が100年以上も他の星への移住計画を断念せざるを得なかったのには一つの大きな問題があった。その問題とは、無重力空間に長期滞在することにより、人間に生じる生理的問題であった。地球上において1Gの重力の下(もと)で進化をし続け、そして今日もその地上で生存している人類が、無重力下で長期間、生存するには、やはり無理があったのである。その事実が判明したのは、宇宙の無重力環境に20年滞在した宇宙飛行士が地上へ降り立ったときだった。その男は0→1Gの急激な重力変化に即応できず、降り立った現地でショック死した。この事故は世界を震撼(しんかん)させた。よく考えれば、小説やドラマ、映画が描くSF世界では、宇宙船内を、さも当たり前のように歩く人間の姿が映し出されていた。それが、宇宙での現実は、人を含む物質が空間を浮き、漂(ただよ)ったのである。
「まずは、生命の安全確保であります!」
移住計画の断念は、米議会で演説された歴史に残る演説に尽きた。
「私達は決して宇宙への移住を諦(あきら)めた訳ではありません!」
演説は続いた。人々はその演説が終わったとき、初めて自分達の考えの甘さに気づいた。気が遠くなるような年月を経て、ようやく人類が地上で最も生存しやすい身体へ順応、進化してきた事実を甘く考え過ぎたのである。加速度的な科学進歩が人間を傲慢(ごうまん)にしたともいえた。
そして2140年、人類はふたたびその異星への移住という科学を進めようとしていた。果たして人類に未来はあるのか? それは、人類の誰もが知らない。
THE END